株式会社Koinobori
HANDS-ON / 執筆:杉﨑(代表取締役)

働いた日の半分は、記録が残っていなかった — 中小企業 × AI 経営(2026年8月)

直近10日のうち、作業記録が残っていたのは5日だけでした。記録係を置いたはずなのに半分こぼれていた理由と、「書かせる」のではなく「書かなかった事実を残す」方向に切り替えた話です。

結論から言うと、**記録が残らない本当の理由は「面倒だから」ではなく、「記録すべき日を仕組みが取りこぼしていたから」**でした。

ある日、自社の作業記録を遡って驚きました。直近10日のうち、記録が残っていたのは5日。ちょうど半分です。休んだ日は1日もありません。10日とも何かしら手を動かしていたのに、記録の上では半分が空白でした。

この記事は、その空白がなぜ生まれたのかを調べ、直した話です。結果として私が採ったのは「もっと真面目に書こう」という精神論ではなく、書かれなかったという事実の方を機械に残させるという方針でした。

「なぜ」だけが、いつも先に消える

まず、なぜ記録にこだわるのかを書いておきます。

作業の履歴そのものは、実は自動で残ります。ファイルの変更履歴を見れば、いつ何を変えたかは分かる。残らないのは「なぜそうしたか」の方です。

履歴が答えてくれるのは「何を」だけで、「なぜ」は誰の頭の中にしかありません。そして半年後には、その頭の中からも消えています。

私自身、過去に何度も同じ目に遭っています。「この設定はなぜこうなっているのか分からないが、触ると壊れそうだから触らない」——こういう箇所が社内に増えていくと、会社は少しずつ身動きが取れなくなります。触れない場所が増えることが、中小企業にとっての本当の技術的負債だと私は思っています。

だから記録を残す。ここまでは、多くの会社が合意できるはずです。問題はその先です。

記録係を置いたのに、半分こぼれた

弊社では以前から、作業が終わったときに記録を書く決まりにしていました。さらにその2週間ほど前には、**記録を書かずに終われないようにする「関所」**まで設けています。作業をしたのに記録が無ければ、そこで止まる仕組みです。

それでも半分こぼれていました。関所を作った日以降のデータを見ると、ある日を境に検知そのものがゼロになっていたのです。

原因を調べて、頭を抱えました。関所が「作業をした」と判定する条件が、ファイルを直接編集したかどうかだけだったのです。

ところが実際の私の仕事は、この数か月で形が変わっていました。

実際にやったこと関所からの見え方
自分でファイルを編集した✅ 作業した
AI に任せて実装させた❌ 何もしていない
調べて「作らない」と決めた❌ 何もしていない
変更をまとめて確定させた❌ 何もしていない

つまり、一番記録が必要な日ほど、関所をすり抜けていたわけです。

AI に実装を任せた日は、私は指示と検収をしています。手は動かしていなくても、判断は全部その日にあります。「調べた結果、作らないことにした」という日に至っては、成果物がゼロなので、記録が無ければその検討をしたこと自体が存在しなかったことになる。半年後に同じことを一から調べ直す羽目になります。

関所は正しく動いていました。ただ、測っているものが仕事の実態とずれていたのです。

直し方:3つの層に分けた

対策を考えるとき、最初に浮かぶのは「関所を厳しくする」です。しかしそれだけでは足りないと判断しました。関所は「その場で止める」ことしかできず、すり抜けた後に取り返す手段がないからです。

そこで、3つの層に分けました。

第1層:関所(その場で止める)

判定条件を実態に合わせて広げました。AI に任せた日も、変更を確定させた日も「作業した」とみなします。ここは判定ロジックなので、想定する5つのパターンでテストを書いて、正しく通ることを確かめてから入れ替えました。

第2層:未記録の検出(翌朝、事実だけ残す)

毎朝、変更履歴はあるのに記録が無い分野を機械が探します。見つけたら、その日の記録に「ここは未記録」という事実と、変更の件名だけを書き足します。

ここが今回いちばん考えた部分です。この機械は、中身を推測して書きません。「たぶんこういう作業をしたのだろう」と補完させれば、記録は埋まります。しかしそれは記録ではなく創作です。だから、書けるのは「記録が無い」という事実と、機械的に取れる件名だけ。空白を埋めるのではなく、空白に印を付ける役割に徹させました。

第3層:出席簿(何をしたかの外形を残す)

その日にどんな相談があり、どれくらいの規模の作業をしたのかを、機械が自動でまとめます。依頼の文面、変更の規模、使った手順——外から観測できる事実だけです。

これは記録の代わりではありません。記録を書くときの手がかりです。「先週の火曜、何をしていたか」を思い出すのに、ゼロから記憶をたどるのと、依頼文が並んでいるのとでは負担が全然違います。

一番慎重に決めたのは、置き場所だった

第3層を作るとき、実装より長く悩んだのはどこに置くかでした。

この出席簿には、私が相談した文面がそのまま入ります。中には取引先の名前や、社外に出せない相談も混じります。一方、社内の記録は普段、バックアップとして外部のサービスに同期しています。

**便利さを優先すれば、同じ場所に置くのが正解です。検索も一括でできる。**しかしそこに置いた瞬間、社外に出せないものが自動で外に出ていくことになります。

結論として、出席簿だけはバックアップの対象外の場所に置きました。参照はできますが、同期はされません。少し不便です。それでも、「便利だから」で機密の線を越えないというのは、一度でも譲ると次から歯止めが利かなくなる種類のルールだと考えています。

このとき同時に、もう一つ後始末をしました。以前作って役目を終えたはずの記録処理が、すでに廃止した保存先に向かって書き込みを続けていたのです。動いてはいるが誰も読まない、という状態でした。これも外しました。自動化は、増やすときよりやめるときの後始末が抜けます。

全部の層で、AIに文章を書かせなかった

今回の3層は、どこにも文章生成のAIを使っていません。これは意識的な選択です。

弊社は以前、AI に記事を書かせて73本中65本が事実と違っていたという失敗をしています。その反省から、「記録」と「事実の集約」にはAIを使わないという線を引きました。詳しくは以前のコラムに書いています。

記録に求められるのは、うまい文章ではなく後から検証できることです。もっともらしい要約より、素っ気ない事実の羅列の方が価値がある。だから機械には「検問」「検出」「集約」だけをさせて、「なぜそうしたか」は人(と、その場にいたAI)が自分の言葉で書くという分担にしました。

中小企業にとっての意味

この話は、AIの有無に関係なく成り立ちます。

よくある対策実際に効く対策
「記録を書きましょう」と呼びかける書かれなかった日を機械が可視化する
書式を細かく決める書く負担を減らす手がかりを自動で用意する
記録の有無を人が点検する点検を毎朝の自動処理にする
空白を後から埋めさせる空白は空白のまま「未記録」と記録する

とくに最後の行が大事だと思っています。**空白を無理に埋めさせると、記録は「それらしい何か」に変わります。**そうなった記録は、後から誰も信用しません。信用されない記録は、あってもないのと同じです。

「先月やったあの判断、なぜそうしたんだっけ」と社内で聞き返す場面が思い当たるなら、まずは記録が無い日がどれくらいあるかを数えてみてください。私の場合は半分でした。予想よりずっと多かったというのが、正直な感想です。

残っている課題

正直に書いておくと、これで完璧になったわけではありません。

第2層が拾えるのは、あくまで変更履歴に痕跡が残る作業だけです。「1時間調べて、結局やらないことにした」という日は、痕跡が何も残りません。この種の日こそ記録の価値が高いのに、機械からは見えないままです。

ここは今のところ、関所——つまり作業の終わりに人が書く仕組み——に頼るしかありません。機械にできるのは、書き忘れを減らすことであって、書くことそのものを代わることではない。今回の一件で、その線がはっきりしました。

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