株式会社Koinobori
HANDS-ON / 執筆:杉﨑(代表取締役)

「部署宛」をやめて「あなた宛」にしたら、タスクが動き出した — 中小企業 × AI 経営(2026年8月)

毎朝タスクを部署ごとに1本流していましたが、誰も自分の仕事だと思っていませんでした。宛先を個人に変え、さらに同じ日のうちに一度作り直した話です。

結論から言うと、タスクが処理されない原因は、やる気でも能力でもなく「宛先」でした

弊社では毎朝、その日のタスク一覧を Slack に自動で流しています。長らく部署ごとに1本の投稿という形でした。運営統括本部の分はこの投稿、研修事業部の分はあの投稿、という具合です。

きちんと届いているのに、動きが鈍い。担当者に聞くと「見てはいます」と返ってくる。見ているのに動かない。この状態がしばらく続いていました。

原因は、私が作った配信の形にありました。

「部署宛」は、誰宛でもない

部署ごとの1本には、その部署のタスクが全部入っています。10件あれば10件が並ぶ。自分の担当は、そのうち2件かもしれません。

これがどう見えるかというと、**「私のタスク2件」ではなく「部署のタスク10件」**として届くのです。

社員が悪いのではありません。そう見えるように私が作ってしまったわけです。会議で「誰かやっておいて」と言うと誰もやらない、というのと同じ構造を、毎朝自動で再生産していました。

弊社の基本方針に「個人を責めず、仕組みを見直す」というものがあります。動かないときに担当者を問い詰めるのではなく、動かない形になっていないかをまず疑う。今回はまさにその典型でした。

直した:本人だけをメンションする

配信の形を、担当者ごとの投稿に変えました。

タスクの管理表には、もともと「対応者」と「レビュワー」が書かれています。ここまで情報があるのに、配信は部署単位のままでした。持っている情報を使い切っていなかったわけです。

新しい形はこうです。

変更前変更後
投稿の単位部署ごとに1本担当者ごとに1本
メンション部署の全員、または無しその人だけ
自分の担当を探す手間一覧から目で探す探す必要がない
レビュワーどこにも出てこないフォローの依頼が別に届く

とくに最後の行は、やってみて効果を感じています。対応者とレビュワーが違う場合、レビュワーにも「この件を見てあげてください」という依頼が届くようにしました。担当者が止まっているときに気づける人が、仕組みの上に1人増えたことになります。

同じ日のうちに、一度作り直した

ここが今回、自分でも良かったと思っている点です。

最初の作り直しでは、**「部署ごとの親投稿+担当者ごとのスレッド返信」**という形にしました。1つの投稿にぶら下げれば、全体像も個人の分も両方見える、という発想です。設計としては筋が通っていました。

実際に流してみた反応は、はっきりしていました。「全く伝わらない」。

スレッドは、開かないと見えません。Slack のスレッド返信は、本人に通知は飛びますが、チャンネルを眺めているだけでは存在に気づきません。「全体像も個人の分も両方見える」という私の想定は、画面を開いた人の実感とずれていました。

そこで同じ日のうちに撤回し、冒頭に一言+担当者ごとの個別投稿を、すべてチャンネル直下に並べる形に変えました。少しにぎやかになりますが、見落とされないことの方が大事という判断です。

この「作って、違ったので、その日のうちに戻す」ができるかどうかは、中小企業にとってかなり大きい気がしています。大きな会社なら、変更にも合意が要り、戻すのにも合意が要ります。数名の会社なら、朝作って夜に作り直せる。規模の小ささを生かせる数少ない場面です。

大事なのは「うまくいかなかったこと」を早く認めることでした。設計としては正しかったのに、と粘っていたら、伝わらない配信がもう1週間続いていたはずです。

ついでに見つかった、静かな欠落

配信を作り直す過程で、別の問題が見つかりました。

社員のマスタを更新する処理に不具合があり、ある管理表に載っていない社員のレコードが、静かに消えていたのです。当日入ったばかりの社員のデータが、その日のうちに消えていました。

エラーは出ません。処理は正常に終わります。ただ、その人だけがいなくなる。もし気づかなければ、その人にはタスクが一生届かなかったわけです。新しく入った人が「自分にだけ通知が来ない」と感じる状態を、仕組みの側が作っていたことになります。

こういう「静かに欠ける」不具合については別のコラムにも書きましたが、今回も同じ型でした。エラーが出ないから正常だと思ってはいけない。今回は配信を作り直すという別の作業をしていたから見つかっただけで、放っておけば何か月も気づかなかった可能性が高いです。

あわせて、退職した社員のデータも整理しました。マスタは放っておくと、入る人は追加されるのに、出た人は残るという形で膨らんでいきます。定期的に見る仕組みがなければ、いずれ「もういない人」に通知が飛び続けます。

中小企業にとっての意味

この話は、Slack を使っているかどうかに関係なく成り立ちます。

情報を「届けた」ことと、相手が「自分の仕事だと認識した」ことは、まったく別です。

届け方受け取る側の実感
全体メールに10件並べる自分の分を探す仕事が増える
朝礼で口頭で伝える聞いた気になるが手元に残らない
部署宛に1本誰かが拾うかもしれない
個人宛に、その人の分だけやるか、断るかしかない

最後の形にすると、逃げ場がなくなります。冷たいようですが、実際には逆でした。「自分は何をすればいいか」がはっきりする方が、働く側もずっと楽なのです。10件の中から自分の2件を探し、他の8件が気になり続ける状態の方が、疲れます。

もし社内で「言ったのにやってくれない」という場面が思い当たるなら、言い方ではなく宛先を疑ってみてください。私の場合、変えたのは配信の形だけで、タスクの中身も締切も何ひとつ変えていません。それでも動きは変わりました。

残っている課題

正直に書くと、これで完成ではありません。

個別投稿にしたことで、チャンネルの投稿数は増えました。人数が増えれば、朝の投稿が10本、20本と並ぶことになります。今の規模だから成立している形で、人数が増えたら別の形が必要になるはずです。

そのときにまた作り直せばいい、と思っています。今の人数に合った形を選び続けることの方が、将来まで持つ形を最初から当てにいくことより現実的だというのが、今回学んだことでした。

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