黒く塗った契約書から、隠したはずの文字がそのまま出てきました — 中小企業 × AI 経営(2026年8月)
PDFの黒塗りは、多くのツールで「黒い四角を重ねているだけ」です。実際に試したら、隠したはずの文字がそのままコピーできました。見た目だけの対策を作らないと決めた話です。
契約書の一部を黒く塗って、取引先に送る。よくある作業だと思います。
その黒塗り、本当に消えていますか。
先日これを実際に試しました。よくあるやり方で黒く塗ったPDFから文字を取り出してみたところ、隠したはずの文字が、そのまま読める形で出てきました。見た目は真っ黒です。でも中身は残っていました。
黒塗りの正体
世の中の多くのツールがやっている黒塗りは、黒い四角を上に重ねているだけです。
紙で言えば、書類の上に黒い紙を置いてコピーした状態ではなく、黒い下敷きを載せて写真を撮った状態に近い。下敷きをどければ、文字はそのまま残っています。PDFは文字のデータと見た目の情報を別々に持っているので、上に何を置いても下の文字は消えません。
自社で無料のツール集を運営していて、そこにPDFの機能を足すか検討していました。「黒塗り機能を作るなら、どこまでできるか実際に確かめてほしい」——そう決めて、テスト用の文書で試したのが今回です。
| やり方 | 見た目 | 黒塗り後に文字を取り出すと |
|---|---|---|
| 黒い四角を重ねる(多くのツールの方式) | 真っ黒で隠れて見える | 隠したはずの文字がそのまま出る |
| ページごと画像に変換してから塗る | 同じく真っ黒 | 文字のデータ自体が存在しない |
見た目はまったく同じです。違うのは、文字が隠れているだけなのか、そもそも無いのか。
「それらしく見える対策」は、あちこちにあります
これはPDFの話ですが、同じ構造の対策は他にもあると思います。
| よくある対策 | 実際に効いているか |
|---|---|
| 個人情報の書類を、シュレッダーではなく手で破って捨てる | 復元できることがある |
| 共有フォルダのファイル名だけを「〇〇(社外秘)」にする | 中身は誰でも開ける |
| メールの宛先を BCC にせず「関係者各位」と本文に書く | アドレスは全員に見えている |
どれもやっている感触はあるのに、守りたいものが守れていません。今回の黒塗りも、まったく同じ形でした。恐ろしいのは、やった本人が安心してしまうことです。対策をしたつもりで送ってしまう。
情報漏洩の事故の多くは、この構造で起きていると思います。何もしていないから漏れるのではなく、それらしく見える対策が実際には機能していなかったから漏れる。
代償も測りました
安全なやり方(ページごと画像にしてから塗る)にも、代償があります。
実際に測ったところ、そのページのファイルサイズが約6倍に膨らみました。さらに画像になるので、そのページは文字検索ができなくなります。
これをそのまま受け入れるのではなく、設計を工夫しました。黒塗りを指定したページだけを画像にして、他のページは元のまま残す。こうすれば、膨らむのも検索できなくなるのも、塗ったページだけで済みます。
判断を推測でしなかったことが良かったと思っています。「たぶん重くなる」ではなく実際に測ったから、どこを工夫すればいいかが分かりました。
作らないと決めた機能
検証の結果、ひとつ決めたことがあります。
見た目だけの黒塗りは、どんな理由があっても作らない。
「軽いから」「速いから」「他社もやっているから」——どれも理由になりません。使った人が「隠せた」と思い込む機能は、無いほうがましだという判断です。
同じ考え方で、あえて作らなかった機能が他にもあります。書類の要約や自動翻訳です。便利さで言えば、いちばん欲しい機能かもしれません。
作らなかった理由は、それらが手元のパソコンの中だけでは完結しないからです。このツール集は「ファイルを一切どこにも送らない」ことを約束しています。要約や翻訳を足すには、契約書を外のサービスへ送る必要があります。看板と矛盾する機能は、便利でも足さないと決めました。
明日できる確認
もし社内で「黒塗りして送る」作業があるなら、一度だけ試してみてください。
黒塗りしたPDFを開いて、黒い部分をマウスでなぞってコピーし、メモ帳に貼り付ける。
そこに文字が出てきたら、その黒塗りは効いていません。使っているツールを変えるか、いったん印刷して紙をスキャンし直す(これは確実です)か、どちらかが必要です。
3秒で終わる確認です。そして、これをやったことがある会社は、意外と少ないと思います。
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