株式会社Koinobori
HANDS-ON / 執筆:杉﨑(代表取締役)

「前年比114%成長」と書きたくなった数字を、書きませんでした — 中小企業 × AI 経営(2026年8月)

うれしい数字が出たとき、つい大きく見せたくなりませんか。弊社の研修事業は、2026年の7ヶ月間で、昨年1年分の実績(1,449人日 対 1,267人日)を超えました。それでも「前年比」は使いませんでした。数字の見せ方をどう決めたかの記録です。

今月の実績が良かった。そんなとき、どう伝えますか。

「先月の1.5倍です」「去年より良いペースです」――つい、勢いのある言い方をしたくなります。数字自体に嘘は無い。それでも、比べる相手の選び方を間違えると、正しい数字のまま人を誤解させることがあります。

弊社の研修事業でも、まさにこの場面がありました。うれしい数字が出て、載せ方に悩んだ話です。

うれしい数字ほど、比べ方を間違える

当社の研修事業は、2026年の1〜7月、つまり7ヶ月間の講師稼働が延べ1,449人日となり、昨年1年間の1,267人日を既に超えました。

昨年までは、実績を「2025年度:講師62名・案件124件」のように、確定した年度の数字で載せていました。年に一度、手で書き換える運用です。今年は年度の途中で前年超えという珍しい事態になり、これをサイトにどう載せるかで、しばらく悩みました。最初に浮かんだのが「前年比」です。計算すると勇ましい数字が出ます。しかし冷静に考えると、これは7ヶ月分と12ヶ月分を比べた数字です。分母が揃っていません。成長率として出せば、読み手には「1年と1年の比較」に見えます。事実の数字を使っていても、比べ方が不公平なら、それは誇張です。

数字は正しくても、比べ方で嘘になる

これは弊社に限った話ではありません。

よくある場面実は起きていること
「今月は先月の1.5倍売れた」と話す先月がたまたま少なかっただけかもしれない
「今年は去年より良いペースだ」と年の途中で言う残り月数を無視して、勢いだけ良く見せている
新人の3ヶ月の成績を、ベテランの1年の実績と比べるそもそも比べている期間の長さが違う

数字そのものが正しくても、分母の揃っていない比較は誇張になります。かといって、年度が終わるまで黙っているのも、もったいない。7ヶ月で通年超えは、当社の規模では紛れもない変化だからです。「盛る」か「隠す」かの二択ではなく、事実をフェアな形で並べて、判断は読み手に委ねるという道もあります。

「前年比」をやめて「到達率」にした

決めたルールはこうです。進行中の年度に「前年比」を付けない。代わりに「昨年通年に対してどこまで到達したか」を示す。

項目2026年(1〜7月時点)2025年通年到達率
延べ稼働人日1,449日1,267日114%
実施案件数120件124件97%

この書き方なら、7ヶ月分であることを明示したまま、昨年1年分を超えた事実が伝わります。案件数は97%――まだ超えていないものは、超えていないと出します。「超えた」ことの明示は「※2026年7月時点で、2025年度通年(1,267日)を上回っています」という一行の注記だけにし、実際に上回ったときだけ自動で表示される仕組みにしました。手で書いた自慢文ではなく、条件を満たしたら機械が出す一行です。

集計中は「集計中」と書く

年度の途中なので、まだ集計できていない項目もあります。たとえばリピート顧客数は年度末に締めます。

ここで空欄やゼロを出すと「実績なし」に見えます。かといって昨年の数字を今年のことのように見せるのは誤認を招きます。そこで、昨年の確定値を示した上で「2026年度は集計中」と注記する形にしました。正直に「まだ集計していません」と書くのは、勇気が要るようで、実は一番楽です。あとから説明に困ることがありません。

数字を「正本」から毎朝配る

もう一つ決めたのは、この数字を手で書き換えるのをやめることです。

社内の実績は表計算で管理しています。これを正本と決め、毎朝、機械がそこから数字を読み取り、サイトの表示を自動で作り直す仕組みにしました。弊社はサイトを複数運営しているので、同じ数字が全サイトに同時に配られます。

これには誇張防止以上の効果がありました。

手で書き換える運用だと、うっかり古い数字が残ります。古い実績を載せ続けるのも、一種の不正確さです。誇張と陳腐化は、どちらも「手作業」から生まれます。

淡々と置いたほうが伝わる

出来上がった実績ページは、派手さのない表です。3年分の推移が並び、2026年の数字が一番長い項目には小さく注記が付いている。それだけです。

それでも――いや、だからこそ、見た人が自分で「7ヶ月で超えたのか」と気づく構造になりました。こちらが「すごいでしょう」と言うのではなく、事実の置き方だけで読み手に発見してもらう。発注を検討している企業の担当者は、数字を疑う訓練を受けた人たちです。「前年比◯◯%!」の裏を探ります。フェアな比べ方をしている会社だ、と分かる表示そのものが、数字の中身と同じくらいのメッセージになります。

うれしい数字ほど、一晩置く

正直に言えば、私も最初は勇ましい率を出したくなりました。うれしい数字には勢いがあります。その勢いのまま公開ボタンを押さず、「この比べ方はフェアか」と一度だけ問う。それだけで、発信の品質はだいぶ変わると思います。

決意は忘れますが、仕組みは忘れません。これは以前書いた「AIに記録を書かせるのをやめた話」と同じ結論です。**誠実さを人の注意力に頼らせない。**7ヶ月で昨年1年分を超えた――この事実は、煽らなくても十分に強い。強い事実は、静かに置くのが一番伝わる。

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