壊れたメールを、事務の方がボタン1つで全員に送れるようにする直前でした — 中小企業 × AI 経営(2026年9月)
お客様へのお礼メールを、事務の担当者が画面から送れるようにする。その画面を作る前に中身を開けたら、宛名が全員「事務局 様」になっていました。使いやすい画面は、正しさも誤りも同じ強さで広げます。画面より先に中身を直し、承認者の代わりに仕組みを置いた話。
「このツール、現場の人でも使える画面にしてほしい」
社内の仕組みを入れ替えるとき、こう頼んだことはないでしょうか。私はつい先日、頼みました。もし頼んだ相手がすぐに画面を作り始めていたら、弊社は壊れたメールを、ボタン1つですべての参加者に送れる状態を完成させていました。
この記事は、画面を作る前に中身を開けてみた記録です。
画面を作る前に、中身を開けてみた
弊社は交流会を定期的に開いていて、参加された方へのお礼や次回のご案内を、メールでお送りしています。これまでは年額制の顧客管理サービスを使っていましたが、実際に使っていたのは配信の機能だけでした。そこで今年の5月から、配信の部分を自社の仕組みに移す準備を進めていました。名前は「Koibumi(鯉文)」。鯉のぼりからの便り、という意味です。
送る仕組みそのものは、6月にはできていました。残っていたのは、事務の担当者が使える画面だけ、のはずでした。
ところが画面の前に中身を確かめると、次のことが分かりました。
- お客様に本番で送ったことは、一度もありませんでした。社内あてのテスト送信が3回あっただけです
- 参加者の名簿を取り込む処理が、4か月前から止まっていました
- メールの文面に、6つの不具合がありました
6つの不具合は、こういうものです。
- 宛名が、全員「〇〇事務局 様」になっていた。受け取る方のお名前がどこにも入っていなかった
- 交流会の名前が、正式な名前ではなく、社内で管理に使っている記号のまま届く
- 件名と本文で、交流会の種類が食い違っていた
- 会場の欄に、住所ではなくウェブのアドレスが入っていた
- お礼メールの「次回のお知らせ」欄が空のまま、記号だけが残っていた
- AIに書かせた「参加回数に応じた一言」の敬語が崩れていた(「お越しがお待ちしております」)
このまま画面を作っていたら、どうなっていたでしょうか。事務の方は、画面の案内どおりにボタンを押します。押した瞬間、この6つがそろったメールが全員に届きます。
画面は、中身の壊れ方をそのまま現場に渡す
使いやすい画面は、中身を速く、広く届けるための道具です。中身が正しければ正しさを、間違っていれば間違いを、同じ強さで広げます。画面そのものに、中身を直す力はありません。
これはメールに限った話ではありません。
| よくある場面 | 画面を先に作ると | 渡す前に確かめること |
|---|---|---|
| 請求書をまとめて発行する | 宛名や金額の誤りが、全取引先に一斉に届く | 1通を自分あてに出し、中身を読む |
| 発注をボタン1つで出す | 「箱」と「個」の取り違えが、そのまま大量の発注になる | 先月の発注を入れ直し、答え合わせをする |
| 勤怠をまとめて集計する | 休憩の扱いの誤りが、全員の給与に入る | 1人分を手で計算し、突き合わせる |
「動くものを作った」と「使われている」の間には、本番で1回使う、という大きな溝があります。弊社の場合、その溝を一度も越えないまま4か月が過ぎていました。
なぜ誰も気づかなかったのか。理由は単純です。6月に文面の出来が気になったまま、直す方針を決めずに手を離していました。名簿の取り込みは手で動かす作りのままで、その後は誰も動かしていませんでした。止まっていることを知らせる仕組みもありません。テストでは届いていたので、内製化したつもりになっていたのです。
画面を頼む前に経営者が確かめるべきなのは、「これは本番で使われたことがあるか」の一点です。
直した順番:中身が先、画面はその後
まず6つの不具合を直しました。宛名にはお客様のお名前が入り、交流会は正式な名前で届くようにしました。名簿の取り込みも毎晩自動で動くように戻し、止まっていた間の分を取り込むと、登録は約1.5倍になりました。
迷ったのは6つ目、AIに書かせていた一言です。何度確かめても、敬語の崩れはゼロになりませんでした。そこでAIをやめ、参加回数に応じた決まった文にしました。お客様に届く文は、毎回同じ品質であることが何より大事です。決まった文は、事務の方が画面から直せるようにしてあります。
実際に9月30日には、担当者から「お礼メールの書き出しの『先日は』は、翌日に送るのだから『昨日は』の方が自然では」という提案がありました。そこで、一言だけでなくお礼やご案内の決まった文そのものも、担当者が画面から直せるようにしました。ただし宛名と差出人、配信停止の案内は、文面をどう直しても消えない作りにしてあります。
AIを入れない、という判断も設計のうちだと、今は考えています。
承認者の代わりに、間違えられない仕組みを置いた
画面ができると、「送る前に誰かの承認を取るか」を決める必要があります。私は、承認は置かず、事務の方が1人で送ってよいと決めました。承認者を置く代わりに、間違えられない仕組みと、あとから見える記録を置いたのです。
本番で送るまでに、5つの関所を通ります。
- 自分あてのテスト送信をしないと、本番に進めない
- テストのあとに文面や設定を変えたら、テストのやり直し
- 本番の前に、送る人数を手で入力する。実際の人数と合わなければ送れない
- 一度に送れる配信は1つだけ。途中で止めても続きから再開でき、同じ方に二重に届かない
- お礼メールは、送る直前に参加者の名簿を読み直し、出席された方だけに送る。名簿が読めなければ、送らない
送った結果(誰が、何件、失敗が何件か)は、社内のチャットに自動で残ります。
あわせて、送る入口を画面1つに絞りました。以前は、画面を通さずに送る方法も残っていました。入口が2つあれば、守りのかかっていない方が、いつか必ず使われます。
便利にする前に、会社を守る枠をつくる
画面ができると、欲が出ます。私も「交流会に限らず、名刺交換した方や取引先にも、用途ごとに送りたい」と頼みました。
ここでも先に確かめたのは、法律でした。宣伝のメールは、受け取ることに同意した方か、名刺を交換した方などにしか送れません。そこで連絡先を登録するときは、「どこで知った方か」を必ず選ぶ作りにしました。どこかで手に入れた名簿は、そもそも入れられません。便利さと引き換えに、会社がリスクを抱えないためです。
最初の1通
9月30日の午後、事務の担当者が1人で、初めてお客様にお礼メールを送りました。前日の交流会に来てくださった方々へ。失敗は0件でした。誰が、何件送ったかは、そのまま社内のチャットに残っています。
仕組みの全体(何がどこで動いているか)は、事例のページで図にして公開しています。
画面を頼む前に、一度だけ、中身を自分の目で読む。それだけで、ボタン1つで起きる事故の大半は防げます。
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