「今いくら見込みがあるか」に、社内で2つの答えがありました — 中小企業 × AI 経営(2026年6月)
確定した売上は経理のシート、これから受注しそうな案件は頭の中とチャット。数字の置き場所が2つに割れていました。案件管理を自社で作り直して分かった、真実をひとつに置くという設計の話です。
「今期、あといくら見込みがありますか」
役員会でも、金融機関との面談でも聞かれる質問です。このとき、答えが人によって違う会社は珍しくないと思います。営業が言う数字と、経理が出す数字が合わない。どちらも嘘はついていません。見ている場所が違うだけです。
うちがまさにそうでした。
数字の置き場所が、2つに割れていた
弊社の営業データには、ずっとねじれがありました。
- 確定した売上は、経理も使う1枚のスプレッドシートが事実上の正解
- これから受注しそうな案件は、私の頭の中・メモ・チャットに散らばっている
つまり「受注しそうな案件」と「確定した売上」が別々の場所にあり、経営判断のたびに私が頭の中で足し算していたわけです。足し算した結果はどこにも残らないので、次に聞かれたらまた足す。人によって答えが変わるのは当然でした。
加えて制約もありました。営業データは社外に出せません。お客様との守秘があるので、便利なクラウドサービスに顧客名と金額を預ける選択肢は最初からありませんでした。
そこで、自社の中だけで完結する案件管理の仕組みを作ることにしました。
「真実が2つある」は、どこの会社にもある
これは営業データに限った話ではないと思います。
| よくある場面 | 起きていること |
|---|---|
| 在庫数が、システムと現場の棚で違う | どちらを信じるか決めていない |
| 社員名簿が、給与ソフトと共有フォルダの両方にある | 片方だけ更新される |
| 顧客の連絡先が、営業の携帯と会社の台帳に別々にある | 担当が辞めると片方が消える |
どれも、どちらが正なのかを決めていない状態です。2つあると、必ずズレます。そしてズレたとき、どちらに合わせるべきかが誰にも分かりません。
作ったもの
3日ほどで、小さな機能を積み上げました。
案件の一覧と見込みの集計、チャットからスマホで更新できるコマンド、いつものスプレッドシートとの同期、電話メモを貼るだけで案件になる仕組み、消しても戻せる削除、確定売上との自動照合、目標に対する今のペースの表示。
ポイントは、新しいツールを増やさなかったことです。社員が普段触るのは、これまでどおりスプレッドシートとチャット。裏側だけが変わりました。立派な画面を作っても、覚えることが増えれば使われません。
つまずきから学んだこと
きれいに一直線では進みませんでした。学びは全部つまずきから来ています。
入力フォームを作り込んだのに、自分が使わなかった。 立派な入力画面をシートの横に作りましたが、私自身が結局スプレッドシートに直接打っていました。使わないものを作っていたわけです。
項目を1つ足したら、データが壊れた。 列を追加した直後、5分ごとに走る同期処理が列のズレを誤読して、データベースを書き換えました。「列を足すだけ」が一番危ない操作だと学びました。
受注の登録が、二重になっていた。 営業が「受注」にした案件を、後から事務が注文書をもとに売上表へ入力する。人と人の受け渡し地点で、同じ案件が2つ生まれていました。
4つの原則
作りながら言葉にできた設計の芯は、4つでした。
- 真実はひとつに置く — 確定売上は経理のシートが絶対。システムは正を作らず、それに追従する
- 自動化は継ぎ目で事故る — 人と人(営業と事務)の受け渡し地点にこそ、人の確認を1枚挟む
- 手軽さが正義 — 立派な画面より、社員が既に使っている道具に寄せる
- データの目利き — 壊れている同期を使わず、信頼できる出どころを選ぶ
とくに1つ目です。システムを作ると、つい「システムの中の数字を正にしたく」なります。でもうちの場合、経理が触っているシートのほうが実態に近い。だから正はそちらに置いて、システムは黙ってついていく側にしました。
派手な話ではありません
AIが何かをしてくれた話ではありません。やったのは、数字の置き場所を1か所に決めただけです。
それでも、「今いくら見込みがありますか」に対して、いつでも同じ答えが出る状態になりました。私が頭の中で足し算する必要も無くなりました。
もし社内で「その数字、どこから持ってきたの?」という会話が起きているなら、置き場所が2つある可能性があります。どちらを正にするかを決めるだけでも、かなりの部分が片付くと思います。
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