この記事のポイント
- 電話メモを貼るだけで、案件登録が約10分から約5秒になった
- 最初は来週を3年前の日付で登録した。今日の日付を渡し、答えも検算した
- 入力されない記録は、入力の手前の一手間が重すぎないか見直す
Q. 電話メモの入力が面倒で、案件の記録が漏れるのを防ぐには?
A. メモを整理せずそのまま貼れば登録される形にして、入力の手前の一手間をなくすことです。弊社では貼り付けるだけで項目へ仕分ける仕組みを作り、1件約10分の入力が約5秒になりました。日付の取り違えを防ぐため、AIに今日の日付を伝え、返答も機械で検算しています。
電話で聞いた話を、あとでシステムに入力しておこう。そう思ったまま、結局手を付けずに終わったメモが、机の上に何枚も重なっていませんか。
私たちの会社も、これで案件を取りこぼしていました。原因は忙しさというより、「整理する」というひと手間にありました。前回の記事で書いた「自社の中に持ったAI」を、実際の現場でどう使っているか。今回はその一つを取り上げます。社員5人の小さな会社で、まず代表である私自身が毎日使い込んで、地味に効いている話です。
メモを貼るだけにしてみた
私たちの会社は創業以来、案件の管理にSalesforceというシステムを使っています。新規の案件も、進行中の案件も、失注した案件も、すべてここに集まる仕組みです。ところが、入力されないまま消えていく案件が、少なからずありました。
たとえば、こんな走り書きの電話メモを想像してください。
既存のお客様から電話、新人研修の追加でJava30名・5月末納期ほしい / 予算500-700万 / 来週見積もり出すこと
これを顧客名・サービス種別・人数・納期・金額・次のアクションに整理して、システムの入力欄に振り分ける作業に、だいたい10分かかっていました。1件10分でも、忙しい日はその10分を捻出できません。結果、案件は頭の中とメモアプリに留まったまま、記録に残らないのです。
そこで、電話メモやメールの本文を、そのまま入力欄に貼り付けるだけにする仕組みを作りました。あとは自社のパソコンで動かしているAIが、それを項目ごとに仕分けてシステムに登録します。顧客名は既存の顧客リストと照合し、「500-700万」のような幅で来た金額は真ん中の数字で記録する。判断に迷わせないよう、今日の日付と既存の顧客一覧をAIに渡す形にしました。
仕組みを組み上げて、いざ最初に動かしてみたとき、ちょっとした事件が起きました。「来週見積もり出すこと」としか書いていないのに、次のアクション日が2023-03-16、3年前の日付として記録されたのです。原因は単純で、AIに「今日が何月何日か」を伝えていなかったこと。基準点がなければ、「来週」を正しく計算できません。
直し方は地味で、二段構えにしました。
一段目は、AIへの指示の書き方です。
- 「今日の日付は◯月◯日です」を明示する
- 「来週は今日の7日後」という解釈のしかたを明示する
- 「今日より前の日付は禁止」と明示する
二段目は、AIの答えが返ってきたあとに、プログラム側でもう一度検算することです。
- 全項目を機械的に検証する
- 過去の日付が来たら、値を空欄に戻す
- おかしな形式が来たら、記録して人が後で確認できるようにする
再テストでは、次のアクション日は正しく「2026-06-01」になりました。AIに何を聞くかより、AIが間違えない型を作るほうが大事だと痛感しました。これは、自社にAIを持ってからの2か月で得た、一番大きな学びでもあります。
「整理してから入れる」が、記録を殺す
これは何もSalesforceに限った話ではありません。業種や規模を問わず、中小企業の情報管理でよくある壁は、たいてい同じ形をしています。
| よくある場面 | 「整理してから」の壁 |
|---|---|
| 電話で聞いた見積もり依頼 | 項目に振り分けるのが面倒で、メモのまま放置される |
| 現場から届く報告 | 体裁を整える手間がかかり、報告自体が来なくなる |
| 名刺交換した相手の情報 | 台帳に転記する前に、名刺入れの中で眠る |
どれも、担当者の能力や真面目さの問題ではありません。**「入力する人が悪い」のではなく「入力の手前にある一手間が重い」**だけです。この一手間を肩代わりできれば、記録は残ります。完璧な1件より、雑な100件のほうが、あとで会社を助けてくれます。
結果として、10分が5秒になった
| 導入前 | 導入後 | |
|---|---|---|
| 1件の入力にかかる時間 | 約10分 | 約5秒 |
| 顧客名の表記ゆれ | 手で正式名に直す | 自動でマッチング |
| 入力されない案件 | 多発 | 「とりあえず貼っとく」で残る |
| 入力するときの気持ち | 「整理してから…」で身構える | コピペして閉じるだけ |
略称で書いても正式な顧客名に自動でマッチングし、「500-700万」は中央値の600万円で記録され、15秒ほどでシステム側の案件番号が自動で振られます。体感の変化は数字以上でした。「とりあえず貼っとくか」が成立するようになり、入力されないまま消える案件が激減したのです。精度を上げる努力より、貼るまでのハードルを下げる努力の方が効いた、という実例でもありました。
経営者として学んだこと
この実装を通じて、あらためて3つの確信を持ちました。
顧客名や金額を扱う下ごしらえの部分を、外部のAIに渡さずに済んだこと。 最終的な記録はシステムに残るので社外にありますが、その手前の整形作業を自社のパソコンの中だけで完結させられたのは、心理的に大きな安心感でした。顧客名や金額を、毎回よそのAIサービスに送る運用は、私には選びたくないものでした。
精度よりも「使ってもらえること」を優先したこと。 理論上の最高精度を追うより、「自分が雑に貼っても動く」状態を作るほうが、記録の量は桁違いに増えました。まず自分自身が使い込んでみる段階で、これがよく効きました。
この程度の作業なら、最先端の重いAIでなくても十分実用になること。 「定型に近い形へ整理するだけ」の作業なら、軽いAIでも十分に用は足ります。何にでも一番重いAIを使う必要はない、とコストのかけ方に対する見え方が変わりました。
もし社内に「入力されないまま消えていくデータ」があるなら、それは入力する人の怠慢ではなく、入力の手前にある一手間が重すぎるだけかもしれません。そう捉え直すと、打てる手はまだいろいろありそうです。その一手間を、誰か、あるいは何かに肩代わりさせられないか。考えてみる価値はあると思います。
次回は、同じ自社AIを使い、タスク管理の仕組みを、経営者とAIの2人だけで1日で立ち上げた話を書く予定です。
関連記事:#01 なぜ私たちはローカルLLMを導入したのか / #03 タスク管理を「雑な初版」で1日で立ち上げた話 / #04 読まれないAIレポートを作りかけて、止めた話
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