株式会社Koinobori
HANDS-ON / 執筆:杉﨑(代表取締役)

ローカル LLM × Salesforce で案件登録を 10 分 → 5 秒に(中小企業 × AI 経営シリーズ #02)

Salesforce の案件入力に 10 分かかっていた壁を、自社ローカル LLM(MLX/Qwen 7B)で 5 秒に。社員 5 人の会社が、電話メモのベタ貼りから JSON 抽出 → Salesforce API 登録までを自社内で完結させた現場記。幻覚対策と sanitize の二段構えも。

タグ: #AI経営シリーズ #ローカルLLM #Salesforce #Qwen #MLX #営業DX #JSON抽出 #中小企業DX #2026

はじめに — 前回からの続き

Koinobori 代表取締役の杉﨑です。 前回(#01)では、2026 年 3 月に自社ローカル LLM を導入した経緯を書きました。今回はその続編として、実際にローカル LLM が現場で何をしているかを 1 つ取り上げます。

テーマは「営業の案件登録」。社員 5 人の小さな会社で、毎日地味に効いている AI 活用の話です。


1. 「整理してから入力する」10 分の壁

私たちは創業以来、案件パイプライン管理に Salesforce を使ってきました。新規案件・進行中の案件・失注した案件、すべて Salesforce に集まる構造です。

ところが、入力されないまま消えていく案件が、少なからずありました。

原因はシンプルで、メールや電話で来た雑な情報を、Salesforce のフォームに合わせて構造化して入力するのが面倒だったからです。

たとえばこんなメモを想像してください。

既存のお客様から電話、新人研修の追加で Java 30 名・5 月末納期ほしい / 予算 500-700 万 / 来週見積もり出すこと

これを「顧客名・サービス種別・人数・納期・金額レンジ・次のアクション日付」に整理して、Salesforce の各項目に入れていく作業に だいたい 10 分 かかっていました。1 件 10 分でも、忙しい日はその 10 分を捻出できない。結果、案件は脳内とメモアプリに留まり、Salesforce に登録されない。

「整理する 10 分の壁」が、データ蓄積を阻んでいたのです。


2. ローカル LLM に「ベタ貼り → JSON」をやらせる

ローカル LLM が手元にあるなら、この壁を越えられるはず ── そう考えて組んだのが、ベタ貼り案件登録の仕組みです。

担当者がやることは、ただ 1 つ。電話メモやメールの本文を、そのまま入力欄に貼り付けるだけ。あとはローカル LLM(MLX で動かす Qwen 7B)が、それを構造化された JSON に変換し、Salesforce API 経由で登録します。

プロンプトには 「今日の日付」「既存顧客マスタの一覧」 を埋め込んで、推測ミスを抑える設計にしました。


3. 失敗:next_action_date を「2023-03-16」と幻覚した日

最初に動かしたとき、こんな出力が返ってきました。

next_action_date: "2023-03-16"

3 年前の日付 に幻覚しています。元のテキストは「来週見積もり出すこと」だけだったのに、です。

原因を追ったら、プロンプトに「今日が何月何日か」を明示していませんでした。LLM は「来週」を解釈するための基準点を持っていなかったわけです。


4. 改良:プロンプト + sanitize の二段構え

直し方は、地味ですが二段構えで対応しました。

第一段:プロンプト改良

第二段:sanitize 関数

この二段構えで、再テストすると next_action_date = "2026-06-01"(来週見積もり)と、正しく解釈されるようになりました。

「LLM に何を聞くか」より、「LLM が間違わない型を作る」。これがこの 2 ヶ月で痛感した一番大事な原則です。


5. 結果:入力ハードルが 10 分 → 5 秒に

仕組みが動き始めて、現場で起きた変化を Before / After で並べると次のようになります。

Before(導入前)After(導入後)
1 件の入力時間約 10 分約 5 秒
顧客名の表記揺れ手で正式社名に直す略称 → 正式社名 自動マッチング
金額レンジの記録手で中央値を計算自動で中央値記録
入力されない案件多発「とりあえず貼っとく」で全件残る
担当者の心理負担「整理してから…」の壁コピペして閉じるだけ

具体的な変化は、こんな感じでした。

体感の変化は、数字以上でした。「とりあえず貼っとくか」が成立するようになり、入力されないまま消える案件が激減したのです。

完璧な 1 件より、雑な 100 件のほうが、組織を前に進める ── これは前回 #01 でも書いた実感ですが、まさに同じことが起きました。


6. 経営者として学んだこと

この実装を通じて、改めて 3 つの確信を持ちました。

「整形プロセス」を社外 LLM に渡さなくてよかった。
最終的な案件データは Salesforce に登録するので社外にありますが、その前段の自然言語処理(電話メモの整形)を手元で完結させることが、心理的な安心感を生みました。顧客名・金額・契約の細部を、毎回 ChatGPT や Claude に投げる運用は、私には選びたくない選択でした。

精度より「使ってもらえること」を優先する。
理論上の最高精度を追うより、「営業担当が雑に貼っても動く」状態を作る方が、データ蓄積量は桁違いに増えました。

Qwen 7B でも、十分実用になる領域がある。
「定型に近い構造化抽出」なら、最先端の重量級モデルでなくても完結する。これが分かったことで、コスト構造の見え方が変わりました。


7. 次回予告

次回 #03 では、もう 1 つのローカル LLM 活用例として、タスク管理 mock を 1 日で立ち上げた話 を書こうと思います。経営者と AI が 2 人で組織システムを組み立てた、その高速回転の現場です。

そして並行して、daily 連載枠「日々の格闘編」も近日開始予定。こちらは 1 本 600〜1,200 字の短編で、毎日の現場で起きた格闘・気づき・反省を綴ります。


読者への問い: あなたの会社で「入力されないまま消えていくデータ」、ありませんか? それは「入力する人が悪い」のではなく、「入力 UI が悪い」のかもしれません。

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中小企業 × AI 経営シリーズ #02 / 前回 #01「なぜ私たちはローカル LLM を導入したのか」 / 次回 #03 に続く

執筆:Koinobori 株式会社 代表取締役 杉﨑

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