株式会社Koinobori
HANDS-ON / 執筆:杉﨑(代表取締役)

「AI活用が失速した」というグラフを、自社サイトに載せる直前でした — 中小企業 × AI 経営(2026年9月)

日々の記録をグラフにしようとしたら、ある数字が8月から20分の1以下に落ちていました。仕事が減ったのではなく、数え方が仕事の変化に付いてこられなくなっていたのです。使わないと決めた数字と、載せた数字の話。

月次の会議で、ある数字が3か月続けて下がっていたとします。

来店客数でも、問い合わせの件数でも構いません。まず何を疑うでしょうか。営業の動き、季節、競合。たぶんそのあたりから順に考えると思います。**「数える側が変わったのではないか」**を最初に疑う人は、あまりいません。

弊社は先日、その順番を間違えかけました。しかも、間違った数字をグラフにして自社サイトに載せる一歩手前まで行きました。この記事はその記録です。

「AI活用が失速した」というグラフ

弊社は生成AIとの協働量を毎日サイトで公開しています。累計の数字は前から出していましたが、累計は増える一方なので、勢いが落ちても分かりません。そこで、日ごとの記録をそのままグラフにすることにしました(その経緯は前の記事に書きました)。

材料は揃っていました。5月末から毎日、AIとの作業記録を機械が集計して表に貯めています。101日分。項目は8つ——作業時間、AIに頼んだ回数、AIが出した文章の量、書き換えた回数、書いたコードの行数、などです。

グラフにする前に、8項目を週ごとに並べてみました。すると**「書き換えた回数」だけが、6月の週554回から8月中旬の週25回へ落ちていました。**20分の1以下です。同じ週の作業時間は落ちていません。むしろ増えています。

この折れ線をそのまま載せていたら、読んだ人はこう受け取ったはずです。「この会社、AIを使わなくなってきたな」。

数字が変わったのか、測り方が変わったのか

これはAIに限った話ではありません。数字が急に動いたとき、疑う先は2つあります。**仕事そのものが変わったのか、数える方法が変わったのか。**後者は見落とされがちです。数える方法は、たいてい誰も気にしていないからです。

よくある場面仕事が変わった、と読むと実は測り方が変わっていた
来店客数が減った集客が弱くなった入口のカウンターの位置を変えた
電話の問い合わせが減った需要が落ちた受付を新しい人に替え、記録の付け方が変わった
残業時間が減った働き方改革が効いた勤怠のアプリを替え、休憩の扱いが変わった

右の列は、どれも「良い話」でも「悪い話」でもありません。ただ、**左の列の解釈で手を打つと、打った手が全部外れる。**集客を強化しても客は増えず、営業を叱っても問い合わせは戻りません。

弊社の「書き換えた回数」も、右の列でした。

何が起きていたか

集計プログラムの中身を確かめて、原因はすぐ分かりました。

AIがファイルを書き換える方法は、大きく2通りあります。「この部分をこう直して」と場所を指定する専用の命令と、もっと汎用的な道具を使って書き換える方法です。集計プログラムは、前者しか数えていませんでした。

8月の中頃から、AIの側が後者を主に使うように変わりました。私が指示したわけではなく、AI側の作業の仕方が変わったのです。書き換えは同じように行われているのに、数える側の目には映らなくなった。

いちばん極端な日がこれです。

2026年8月19日記録
作業時間6.1時間
AIに頼んだ回数96回
AIが出した文章の量115万トークン
書き換えた回数0回
書いた行数0行

6時間働いて、96回頼んで、書き換えは0回。そんな日はありません。実際にはこの日、汎用の道具による書き換えが306回ありました。数えていなかっただけです。

記録が半分取れていなかった話にも書きましたが、あのときも同じ構造でした。仕組みは正しく動いている。ただ、**測っているものが、仕事の実態とずれている。**今回もそれでした。

使わないと決めた数字、使うと決めた数字

原因が分かれば、集計を直すのが筋です。ただ、今回は直す前に「グラフに何を使うか」を先に決めました。

8項目を、測り方が変わっても揺れないかどうかで分けました。

使う使わない
作業時間(何時に何をしたかの記録から出る)書き換えた回数
AIに頼んだ回数書いた行数
AIが出した文章の量新しく作ったファイルの数
対話の本数

左の4つは、AIの作業の仕方が変わっても、数え方が変わりません。右の3つは、道具の使い方ひとつで消えてしまう。今日直しても、また別の変化で同じことが起きる種類の数字です。

こういう数字は、グラフの主役にしないのが正解だと思います。直せば復活しますが、復活した数字を信じるには、次にいつ壊れるかを見張り続ける必要があります。その見張りの手間と、数字の価値が釣り合いません。

載せたのは「続いているか」だけ

結局グラフにしたのは、2枚です。

1枚目は、103日分のカレンダー。AIと働いた日を1マスずつ塗り、作業時間が長いほど濃くしました。103日のうち96日、最長で26日連続でした。休んだ5日と、記録が取れなかった2日は、埋めずに空白のまま出しています。

2枚目は、月ごとの1日平均作業時間。累計ではなく1日あたりに直すと、飽きて減っていないかが見えます。5月から順に、2.07時間、1.96、1.91、2.15、そして9月は3.02時間。下がっていません。AIに頼む回数は1日30回から56回に増えていました。

派手な数字は何もありません。「途切れていない」という事実だけです。ただ、中小企業のAI導入でいちばん多い失敗は「入れたけど使われなくなった」だと思っているので、そこだけは証拠を出しておきたかった。

作ったグラフも、最初は嘘をついていました

もう1つ、白状しておきます。

作ったグラフを確かめたら、6月と8月に「途中」という印が付いていました。月の全日が揃っていない月に付ける印のつもりでした。ところが6月と8月は、記録が取れなかった日が1日ずつあっただけです。「1日欠けている」と「まだ月の途中」は、別のことなのに、同じ条件で判定していました。

ほかにも、60分未満の日が「0.0時間」と出ていたり、合計の欄が空だったり、細かいものが計4つ。どれも公開前に見つけて直しましたが、測り方を疑って始めた作業で、自分の測り方も間違えていたわけです。数字を出す側にいる限り、この確認から逃れられる日は来ないのだと思います。

明日できる確認

社内に「ずっと見ている数字」があるなら、担当の方に聞いてみてください。

この数字、数え方は最初から同じですか?

「同じです」と即答が返ってくれば、それで結構です。少し考え込むようなら、いつ、何が変わったかを一緒に追ってください。数字が動いた時期と、数え方が変わった時期が重なっていたら、その折れ線は仕事の話ではなく、物差しの話です。

物差しが変わった数字で手を打つと、打った手は全部外れます。外れた理由も、その数字では分かりません。

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