この記事のポイント
- 後半の12日間で65点から92点へ。残りは9件で、深刻さ「高」はゼロになった
- 残った弱点は2段階認証・公開停止・解約・購入など、社長しか決められないものだった
- AIに見つけさせ、社長がその日のうちに決める。決める時間を先に取っておく
Q. 中小企業のセキュリティ対策が進まないのはなぜ?
A. 直すかどうかを決められる人が、社長しかいない弱点が多いからです。管理画面の2段階認証、書類の公開停止、使わないサービスの解約、機材の購入は、担当者やAIでは決められません。弊社では、社長がその場で決めた日に点数が大きく動きました。
前編では、社員5人の弊社が、セキュリティの点検で0点だったことを書きました。合鍵は玄関マットの下、窓は開けっぱなし、書類は道路から丸見え。見つかった弱点は86件で、最初の5日間で65点まで直しました。
後編は、その先の話です。
結論から言うと、65点から92点まで上げたのは、AIではなく、社長の即断でした。 AIは弱点を見つけるのが得意です。けれど、直すかどうかを決めることはできません。65点から先に残っていたのは、私にしか決められない弱点ばかりでした。
65点から92点までの12日間
後半の点数の動きは、こうなりました。
| 日 | 点数 | やったこと |
|---|---|---|
| 5日目 | 65点 | (前編まで) |
| 6〜7日目 | 67点 | 検査の取りこぼしを拾い直し、古い記録に残っていた鍵を消した |
| 9日目 | 87点 | 管理画面の2段階認証、ドメインの乗っ取り防止、2台目のサーバーの再点検 |
| 12日目 | 90点 | 使わなくなるサービスの整理、社内アプリが預かる鍵の暗号化 |
| 17日目 | 92点 | 社内サーバーのディスクの暗号化とバックアップ |
出典:弊社の全社セキュリティ点検の記録。見つかった86件を物差しに、各日の終わりに直っていた割合で計算
86件のうち77件を直し、残りは9件です。深刻さ「高」の弱点は、ゼロになりました。 残りは、日程を決めて進めている確認作業や手入れです。CVSS(前編で説明した、弱点の深刻さの国際的な物差し)でいうと、「緊急」にあたる11件はすべて直しています。
出典:弊社の全社セキュリティ点検の記録(86件中77件を対策・2026年11月6日時点)
残った弱点は、社長にしか決められないものだった
前半で直したものの多くは、AIがプログラムを書き換えれば済むものでした。後半に残ったのは、性質が違います。並べると、こうなります。
| 残っていた弱点 | 決められるのは誰か | なぜ担当者やAIでは進まないか |
|---|---|---|
| 管理画面に2段階認証が無い | 社長 | 認証の登録は、アカウントの持ち主のスマホでしかできない |
| 書類が「リンクを知っている全員」に公開 | 社長 | 閉じると、誰かの仕事が止まるかもしれない。止めてよいかの判断が要る |
| 使わなくなるサービスの鍵が残っている | 社長 | 鍵を消すには、契約の整理(解約)を決めないといけない |
| ディスクの暗号化とバックアップが無い | 社長 | 機材を買うお金と、止めてよい時間を決めないといけない |
| ドメインの乗っ取り防止が掛かっていない | 社長 | 契約者の管理画面でしか設定できない |
どれも、技術としては難しくありません。難しいのは「決める」ことです。そして、小さな会社でそれを決められるのは、社長しかいません。
点数の動きを見返すと、それがはっきり出ています。いちばん大きく動いた2日は、どちらも私がその場で決めた日でした。
- 5日目(+30点):公開されていた書類を「今日、全部閉じる」と決めた日です。困る人がいれば、あとで個別に共有し直せばいい、と割り切りました。
- 9日目(+20点):管理画面の2段階認証を、AIに画面を案内してもらいながら、その日のうちに私が自分で設定した日です。
即断した例、即断しなかった例
即断といっても、何でもすぐ変えればいいわけではありません。後半で決めたことを、いくつか挙げます。
その日のうちに決めたもの
- 2段階認証:「設定されていません」と聞いて、その日の夕方には設定を終えました。
- 使わなくなるサービスの解約:もともと解約する予定だったサービスがありました。解約日まで鍵を残しておく理由はないので、整理を前倒しにしました。
- バックアップ用の機材の購入:その日のうちに注文し、届いた翌日に設定しました。設定のあと、再起動して本当に元どおり動くかまで確かめて、92点になりました。
あえて今は変えないと決めたもの
- 社内のネットワーク機器の一部の設定:外出先から遠隔で変えて、もし失敗したら戻せません。危なさは低いので、「今のまま」と決めました。変えるなら、機器の前にいるときにやります。
「やらない」と決めるのも、立派な判断です。いちばん困るのは、決めないまま「あとで」と置いておくことでした。前編で書いたとおり、弱点の多くは、その「あとで」が積み重なってできていました。
失敗談:社長自身が、パスワードを覚えていなかった
後半にも失敗がありました。
1つ目。2段階認証を設定しようとしたら、ある管理画面のパスワードを、私自身が覚えていませんでした。作り直すことになり、途中でログインの回数制限に引っかかって、1時間以上待たされました。「社長しか決められない」は、「社長しか入れない」でもあります。その社長が鍵をなくしていたら、会社の誰も入れません。
2つ目。古い鍵を1本取り消したら、そこにひも付いていた別の鍵まで一緒に消えました。ある仕組みが動かなくなり、登録し直しました。鍵は単独で存在しているとは限りません。取り消す前に、その鍵で何を作ったかを確かめるようにしています。
どちらも、AIが見つけた弱点を直す途中で起きたことです。直す作業そのものにも、人の判断と確認が要ります。
気づいていない社長へ:点検はAIに、決めるのは社長に
この17日間で分かったのは、役割分担です。
- AIに、見つけさせる。 社内の仕組みと共有ファイルを広く見て、弱点を一覧にするのは、AIが速くて正確です。CVSSで深刻さの目安を付け、直す順に並べるところまで任せられます。
- 社長が、その日のうちに決める。 直すか、直さないか、いつ直すか。お金や契約や、誰かの仕事に関わる判断は、社長しかできません。
- AIと一緒に、本当に直ったか確かめる。 直したあとに、別の方法でもう一度確かめます。AIの報告も、人の作業も、間違えるからです。
「セキュリティは担当者に任せている」という会社は多いと思います。けれど、担当者には、解約を決める権限も、機材を買う予算も、社長のアカウントに2段階認証を設定する手段もありません。任された担当者は、弱点を見つけても、社長の判断を待つしかないのです。
だから、社長がやることは1つです。決める時間を、先に取っておく。 弊社では、AIが弱点を挙げたら、その場で「今日直す」「日を決めて直す」「今は直さない」のどれかに振り分けました。「あとで考える」は選ばないようにしました。
92点は、ゴールではない
92点は、満点ではありません。残りの9件もあります。新しい仕組みを作れば、新しい弱点も生まれます。新しい弱点が見つかれば、点数はまた下がります。
それでも、0点の家と92点の家では、泥棒の目に映る姿がまったく違います。そして、0点から92点まで、かかったのは17日でした。特別な予算や専門の部署は要りませんでした。要ったのは、AIに見つけさせる仕組みと、社長がその場で決めることだけです。
自分の会社が何点なのか、まだ分からない方へ。まずは1度、点検してみてください。そして、見つかった弱点を前にしたら、その日のうちに決めてください。
参考:グラフの数字は、弊社の全社セキュリティ点検の記録(2026年10月21日〜11月6日)から作りました。CVSSの区分は FIRST「CVSS v4.0 Specification Document」によります。CVSSの考え方は前編で詳しく説明しています。
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